最後の旅行(二)
新幹線が好きだ。
旅先でローカル電車に揺られるのも、
東京に住まいながら近郊都市へ快速急行に乗ったり特急電車に乗るのも良いが、
旅情感以外の「人生の景色」を自身と同化させるように感じられる新幹線が一番好きだ。
六月の初旬、品川駅から博多行きののぞみへと乗り込む。
母親と一時期旅行に行っていた際二人とも飛行機が苦手な為、極力新幹線を利用していた。
最長で品川−博多間まで乗った事があるが、福山を過ぎた頃が最も足腰がしんどくなり、
徳山の周南コンビナート群から淡々と排出される
明らかに「悪そう」な煙が見えてきた頃には人生どーでもイーガーコーテル状態になる。
岡山は初めて行く。
彼女と知り合ったばかりの頃、岡山に「出てきた」という理由がよく分からなかった。
私は進学や就職を全て東京23区内という狭い空間で賄ってきた故漠然としたイメージしか浮かばないが、鳥取から職を得る為に出ていくとしたら、大阪辺りが妥当だろう。
広島という線もあるが、就職先がより潤沢にある大阪が筆頭候補に挙がるのでは?と思った。
後から聞いた話だが、自分が生まれ育った所と比べると岡山でさえ都会で、ましてや大阪なんて怖くて無理だったとの事だった。
私が逆の立場でもそうしていた、いやそれすらも出来なかったのではと考えを巡らせる。
727コスメティックスの看板もとうに見飽きて、
京都駅のホームでアントニオ猪木がビンタをしている瞬間を目撃した事を思い出している内に念願の
岡山駅に到着した。
思わず口に出してしまったぐらい意外と都会で、
こじゃれたイオンモールが岡山駅周辺のランドマーク的なポジションで鎮座している。
商店街のある街で育った私にとって生活を建屋一棟で賄えるショッピングモールがとても新鮮なものに思える。
幼少期に沖縄で三年間過ごした経験から、
面倒なぐらい都会至上主義になってしまったが、
人は何処でも暮らしを営んでいるんだなぁと
岡山に来たら最初に食べたかった豚の蒲焼き重をほおばりながら薄っぺらい想いを馳せていた。